【文章講座】書くヒント②共感を呼び、読まれる文章を書く方法
文章講座 万年筆で書こうの表紙

本稿では前編・後編の2回にわたり文章を書く方法やコツをお伝えしています。「文章力は発見×構成」ということを前提に、文章を書く上で、文章の元、書くネタとなる「発見」をすることが大事だと前編でお伝えしました。発見には新しいことを見つけるより、これまでを振り返り「思い出す」ことが重要だと述べました。後編でさらに踏み込んで発見をするコツを紹介し、構成にも触れたいと思います。

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発見をするマインドセット

「よしこれから文章を書くぞ。何を書くか思いめぐらせよう」と言って、机に向かった経験は誰でもお持ちだと思います。そして、「結局、何も出てこなかった」という経験もほとんどの方がしていると思います。結局、机に向かった数十分、場合によっては数時間が無駄になったわけです。

こう言っては何ですが、文章を書くぞと意気込んで、次の瞬間に書けていることはまずありません(それができる人はこの記事を読んでいないでしょう)。なぜ書けないかというと、頭の中で文章を書く準備ができていないからです。「いや、その準備をするために机に向かったのだし、文章のコツは思い出すことなんでしょ。これまでは無理だったかもしれないけど、コツがわかったのだからできるんじゃないの」という意見もあると考えられます。

しかし、それでもやっぱり、文章をさっと書けることはまずないと思います。なぜかというと、繰り返しになりますが、文章を書く準備ができていないからです。「おいおい、なんじゃそりゃ」と感じたかもしれませんが、もう少しお付き合いください。この場合の文章を書く準備とは、文章書くマインドセット(思考パターン)と言っても良いものです。ちょっとややこしい言葉を使いましたが、煎じ詰めると要するに「文章を書く」と心に決めることです。

たったこれだけ、と思ったかもしれませんが、たったこれだけです。とてもシンプルですが、非常にパワフルなテクニックです。文章を書くと決めた後は、机に向かってネタ探しをする必要はまったくありません。それよりむしろ、「半分くらいは」忘れてしまったほうがいい。言ってもみれば、アイドリング状態にして後は放っておきます。すると、ふと「そういえばこういうことがあった。文章にできるんじゃないか」と過去の体験を思い出したり、何かを見た時に「あれ面白いな。文章にしてみよう」と思ったりするものです。少々大げさですが、これまでと景色の見え方が違ってくるのです。

このアイドリング状態にする手法は、有名な漫画家とお笑い芸人がある対談で触れていました。毎日決められた時間をアイデアやネタ出しに充てるのではなく、アイドリング状態にしてふとした瞬間にアイデアやネタが浮かぶようにしている、というようなことを言っていたと記憶しています。その話を聞きながら「そうだよね。アイデアやネタはひねり出して出てくるものではないよね」と感じたものです。

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発見は、散歩、読書、対話から生まれる。

発見のコツは文章を書くと心に決めて後は放っておくこと、アイドリング状態にしておくことだ、と述べました。ここで、アイドリング状態にした上で、もう少し強制的に発見をする手法をお伝えします。具体的には「散歩する」「読書する」「対話する」です。一つずつ見ていきましょう。

まず「散歩する」について。散歩する時は「さあ、文章のネタ探しのため歩くぞ」などと意気込まず、自然な感じでただ歩くのが良いでしょう。音楽を聴きながらでも構いませんが、なるべく周囲の音が入ってくる状態にしておくことをお勧めします。音も発見に結び付く重要な情報源の一つです。聞くとはなしに聞いていた道行く人の話が意外と面白かったりします。周囲の声や音に耳を傾ける必要はありませんが、聞こえるくらいにしておいたほうがいいです。

歩いていると、思い出したり気づいたりすることが少なからずあります。放っておくと忘れるので、可能な限りその場でメモを取ります。調子の良い時はメモを取る手が止まらなくなるほど、発見やアイデアが次々と浮かんできます。それくらい散歩の効果は大きいのです。

続いて、「読書する」について。本は何でも構いません。本を読んでいると、それが何であれ、時に共感したり反発したりします。それが発見です。この時、なぜ共感するのか反発するのか、立ち止まって考えてみましょう。すると、共感や反発の元になった体験が出てくるはずです(これは実は読書感想文の書き方でもあります。感想文の書き方の詳しい内容はこちら)。

本を読むときは、その本からネタを探そうと思わないことが肝心です。本から想起したことは、その本とまったく関係なくても良いです。むしろ関係ないほうが良いくらいなのです。本の内容に関することは、あくまでその著書のものです。つまり、発見があったとしても、それは著者の発見で、あなたの発見ではないのですね。その「発見」を元に文章を書こうとすると、究極的には本の要約になってしまいます。

自分の意見を補強するために本から引用することはありますが、その場合と読み方が異なります。本を読むのは、あくまで自分なりの発見をするためであり、体験を思い出すことが目的です。ただし、読書する時も散歩する時と同じで、「さあ、発見をするぞ」と考えず、気楽に読むことが重要です。大丈夫です。アイドリング状態になっていれば、書くための発見は必ずできます。また、特に発見ができなくても気にしないようにしてください。散歩するも読書するも対話するも、即時的な結果を求めてはいけません。散歩そのもの、読書そのもの、対話そのものを楽しむようにしていれば、いずれイヤでも発見があります。

最後に、「対話する」について。これも無理に発見しようなどと思わないことです。友人をつかまえて「これから文章を書くから、発見をする手伝いをしてほしい。ついては私と対話しないか」などとやらないでくださいね(笑)対話の効果は、自分では持ちえない視点で物事を見ることです。読書も似たような効果を持ちますが、よりはっきりとスピーディーに自分ではない視点を獲得できます。「そんな見方もあるんだ」と感じることがそもそも発見です。「なぜ自分はそう考えなかったのか」「その視点を獲得したことで、今後はものの見方はどう変わるか、あるいは変わらないか」などと突き詰めていくと、いかがですか。それなりにしっかりとした文章が書けそうな気がするでしょう。

対話の時の注意点はなるべく対話に集中することです。メモを取っても構いませんが、メモを取ることに集中したら相手は話しにくいですからね。メモは最小限にしておきましょう。細かなことを書きたい場合は、会話が終わってからにすることを推奨します。

他人と同じものを見て、違うことを考える。

これまで発見の仕方について解説してきました。ここで、どういう「発見」が良いのか、文章のネタになるのか、言及します。ポイントは1つで「自分なりの」発見であることです。別の言葉で言うなら「他人と同じものを見て、違うことを考える」となるでしょう

もちろん、自分なりに考えて他人と同じことを「発見」することもありますが、それは文章のネタにはなりません。もっともつまらない文章の一つは、誰でもわかりきっている内容です。自分が読むほうの立場になって考えると、既にわかっていることを読まされるのは、非常に苦痛だと気づきます。常識的なことは本当につまらないものです。その意味で、自然が大事、仲間を大切に、努力しよう、などと常識的なことを常識的な内容で語られ評価される学校好みの文章が一番つまらないです。だから、学校で文章を評価されたことはなくても、まったく気にする必要はないのです。

読んでいるほうも、新たな発見や気づきを得たいから文章を読んでいます。せっかく自分の文章を読んでくれる読み手に対し、新たな発見を提供するのは、書き手のマナーと言っても良いかもしれませんね。

ただし、「違うことを考える」と言っても、ひねくれろと言っているのではありません。「それってこういう見方もできるんじゃないか」と考えることが、違うことを考えるコツと言いますか、違うことを考えることそのものです。結果として「それはやっぱりこうなるよね」という結論になっても構いません。文章にはならないとわかっただけでとりあえず良しとしましょう。少なくとも、つまらない文章を書くのを避けることができのですから、一つの成果と言えます。

もう一つ「自分なりの」という点で大事なのは、「自分の体験」を通すことです。自分の体験とは、自分で見聞きしたことです。「友人が言っていたことだけど」「親から聞いたことだけど」ではだめです。あくまで自分が体験した一次情報を文章にします。ただ、少々ややこしいですが、「友人が言っていたこと」を聞いたという自分の体験は、それなりのテクニックは要しますが、文章できます。ダメなのは伝聞です。「友人がこんなことを言っていたよ。面白いでしょ」はつまらないのです。

なぜ「体験」を重視するのか。

ここまでで「自分の体験が大事だ」という趣旨のことを何度か申し上げました。体験というのは、その人だけのものです。他の人と同じ体験をしても、感じ方はそれぞれでしょう。まったく別のことを考えても何の不思議もなく、むしろ当たり前です。だからこそ、体験は自分らしい文章、自分だけが書ける文章を書く上でとても大事なのです。

自ら現地に赴き、自ら見たり聞いたりする体験は、これから先、今まで以上に重宝されることになると、私は予想しています。その大きな要因を作っているのは、ChatGPTなど生成系AIの出現です。

ChatGPTは二次情報を相当程度こなれた言葉でまとめます。ChatGPTにちゃんとした指示を送れば、ネットから適切に情報を集め、読みやすい形にして提供してくれます。例えば、ペリカンのスーベレーンについて知りたいとChatGPTにオーダーを出すと、メーカーや特徴、歴史、価格、使い心地などを瞬時に教えてくれるでしょう。もしかしたら、人が書くより上手に書くかもしれません。書くスピードに関して言えば、もはや人はAIに太刀打ちできないのが現状です。

一方で、AIが絶対に書けないものがあります。それは自らの体験です。AIどんなに上手に情報をまとめても、それは二次情報です。巧みにまとめている反面、最大公約数的と言いますか平均的と言いますか、当たり障りのない内容になっています。そこには納得があっても、なかなか共感は生まれません。将来的にはわかりませんが、今のところAIは自らの体験で読み手の共感を呼ぶことはほぼ不可能と言えるでしょう。人が書くのであれば、一般的にはこう言われているけど、自分にはこうだった、あるいは実際にはこうだった、と伝えられることもあります。書き手の生々しい体験にこそに読み手は納得以上の共感(場合によっては反発)を覚えるのです。

今後、書く分野でもAIの存在感は増すことになるでしょう。情報をネットから集める系の文章は、AIにとって代われる可能性はあります(費用の問題などもあるので、すべてがAIに変わるとは考えにくいですが)。ただ、体験の部分だけはAIではどうしようもできないので、自ら見聞きする、自分の頭で考える、肌で感じる自らの体験はとても重要になってくると考えられるのです。

なお、AIの利用について、現状では正確性が十分には担保されていません。仮に自分が良く知っている分野のことについてAIに尋ねると、短い回答の中にも複数の間違いが見つかるはずです。このことから、非専門分野についてAIに頼りっぱなしで書くのはあまりお勧めできません。いずれ改善されると思いますが。

まとめ

「発見」について詳細に解説しました。発見の重要なキーワードは「アイドリング状態」です。文章を書くと決めて、あとは頭の片隅に置いておきます。発見するための効果的な手法としては「散歩」「読書」「対話」があります。また、「体験」の価値についてもお伝えしました。体験を通すことで、自分らしい文章が生れます。

※後編は長くなったので、ここで一旦区切ります。後編の後編は、「構成」のテクニックを中心にお伝えする予定です。

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