【文章講座】読み手を意識して伝わる文章を書く(前編)

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良い文章を書きたいのに、うまくいかない。進まない筆を何とか進めて書き上げても、ピンとこないと言われる。そして内心、自分でもどこかしっくりこないと感じている――。良い文章とそうでない文章、その違いは何なのでしょうか。なぜ伝わる文章とそうでない文章があるのか。両者の違いがわからず、悶々とすることも少なからずあるでしょう。

そこで今回、良い文章を書くためにプロのライターが使っている技術をお伝えしたいと思います。文章の言葉尻を直すとか、一文の長さを調整するとか、そうした小手先のテクニックをお伝えしたいのではありません。もっと根幹的で、パワフルかつ有用性の高いノウハウであり技術を取り上げます。文章を書く上での基本中の基本と言ってもいいかもしれません。キーワードは「読み手(読者)主体」です。この技術を知ることで、「書けない」という悩みからも解放されます(それでいて、知らない人が多い技術という代物で、個人的になぜこれを最初に教えないんだ、これはちょっと文章教育の根深い問題だなと思っていたりもします)。

読み手主体とは、ごく簡単に言えば、読み手のことを考えながら書くという、とてもシンプルなことですが、知っているか知らないかで、文章の質に大きな違いが出ます。以下に「読み手主体の文章」の考え方、文章への応用の仕方を前編と後編に分けて解説します。前編では、読み手主体の文章を書く際に欠かせない「読み手の設定」を中心に紹介します。

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読み手の聞きたい、知りたい、読みたいに応えること。

大前提として、なぜ読み手主体の文章が良い文章なのかを考えてみます。結論から言うと、文章は読まれるものだからです。「書く」とはすなわち「読んでもらうこと」と捉えて良いでしょう。文章は読まれることによって成立する側面があります。このため、文章を書く上では読み手の存在は無視できないのです。ほとんど反論の余地はないことだと考えられますが、反面、文章を書く時に読み手のことはほとんど考えられていないのが現状です。「書く前、書いている途中、書いた後、いずれかの時間に読み手のことを考えることはありましたか」と尋ねると、ほとんどの人が「いいえ」と答えます。白紙を字で埋めることに没頭し過ぎて、ついつい読み手のことが疎かになってしまいます。

読み手主体の文章とは、簡単に言えば、「読み手が読みやすい文章」です。これだけ言うと、なんだか当たり前、それがどうしたと感じるかもしれません。読み手が読みやすい文章に理解を深めていただくため、真逆の概念を紹介しましょう。それは「書き手が書きたい文章」です。なんだかピンと、あるいはドキリとしませんか。実は文章は書き手が書きたいように書いていることが少なくありません。ほとんどの文章がそうだと言ってもいいほどです。言ってしまえば読み手無視。これで文章を読んでもらおうなどとは、相当に虫のいい話だと理解されるのではないでしょうか。

文章は「読まれるため」に書きます。キツイ言い方をすれば、読まれない文章に価値はないので、読み手のことを考慮した上での読まれるための工夫は絶対に必要なのです。といっても、何も読み手に媚びれと言っているのではありません。読み手にしっかりと読み進めてもらうよう、読み手の聞きたい、知りたい、読みたいに応えることが大事なのです。

「誰に」読んでほしいのか、明確にする。

文章が読まれるまめに「読み手」とは誰なのかをはっきりさせる必要があります。つまり、あなた(書き手)は「誰に」読んでもらいたいのか。この点を明らかにします。読み手は、定量(数値など客観的な情報で表せるもの。例えば、年齢、性別、体重、職業など)、定量(数値化できないもの。気持ち、好み、性格、性質など)、両面を考慮しながら設定します。ケースバイケースですが、あまり細かく設定する必要はありません。ざっくりと「子育て中の20代会社員女性」「給料が安いため、転職しようか悩んでいる30代」「万年筆に興味を持ち、これから初めて購入しようとしている40代」などという感じでまずは十分です。

読み手を設定せずに「みんなに読んでほしい。そのほうが幅広く読んでもらえるのではないか」という声もあるかもしれません。しかし、それはあまり得策とは言えないことです。なぜなら、みんなは広く読者を設定しているようで、誰にも振り向いてもらえないからです。みんなに向けられた文章は、書き手の意図とは裏腹に、誰にも読んでもらえない文章、誰にとっても価値の低い文章となる。「みんな」は「誰でもない」と考えたほうが適切なのです。

具体的に考えてみましょう。例えば、「万年筆は楽しい」ということを「みんな」に伝えるとします。そのみんなというのは、万年筆に詳しい人かもしれませんし、万年筆に多少興味を持った人かもしれませんし、あるいは万年筆とはどんなものか瞬時に思い浮かべられない人かもしれません。これらの人はすべて「みんな」に当てはまります。その「みんな」に一つの文章で「万年筆は楽しい」と伝えるのは困難を極めます。ほとんど不可能と言っていいでしょう。それぞれの万年筆に関する知識や関心が異なり、何を持って「楽しい」と感じるかはバラバラだからです。ある人にとっては楽しいことも、ある人は楽しくないことかもしれません。また、万年筆に詳しい人にとっては当たり前のことでも、万年筆に詳しくない人には万年筆とは何かから説明しなければいけないこともあります。すると、万年筆に詳しくない人向けに書いた文章は万年筆に詳しい人を退屈させてしまう。逆もまた然りで、結局、誰にとっても面白く文章が出来上がってしまうのです。

もしかしたら、読み手は自分の興味あるところだけ読めばいいのではないか。自分にとって必要な箇所だけを抽出して読めばいい。と思うかもしれません。しかし、それは少々乱暴な物言いで、書き手がエゴイスティックになり過ぎています。読むという行為は能動的な行為です。何を読むか、あるいは読まないかの選択について、書き手が決める権利はゼロです。100%読み手にゆだねられています。「〇〇に興味をお持ちの方はここをお読みください」と注釈を入れる手もありますが、それなら最初から読み手に応じて文章を分けたほうが話が早いですし、読み手も混乱しません。そもそも自分に関係のない箇所が含まれている文章を読みたいと思うかという問題もあるでしょう。そんな面倒な文章は読まないと読み手に思われても、書き手は文句を言えないことを心得ておかなくてはいけません。

読み手を設定すると効果的な文章が書ける。

ここまでかなりスペースを割きながら細かく読み手の話をしました。きちんと読み手を設定するということは、文章の善し悪しを決める上で極めて重要な要素です。加えて、読み手をきちんと設定することで、文章の書きやすさも変わってきます。例えば、20代と40代では人生経験も置かれた立場も異なるので、興味を持つ内容が変わってくるでしょう。年代によって言葉遣いが変わってくるのも周知の事実です。すると、文章も読み手によって内容や言葉遣いを変えたほうが良いという発想も生まれてくるはずです。従って、何をどう書けば良いかが見えてくるのです。

「給料が安いため、転職しようか悩んでいる30代」を例にとって考えてみましょう。この設定を見ただけで、読み手がどんな情報を必要としているか、つまりどんな文章を読みたがっているか、あるいは興味を持ってもらえるか、想像がつくのではないでしょうか。この場合、読み手は転職の情報を欲しています。給料の良い転職先の情報や上手に転職する方法を提供すれば、読み手の読もうとする気持ちを高められます。少しひねって、読み手は要するに収入を上げたいのだと気づけば、副業や投資に関する情報を提供しても良いのではないかと思いつくでしょう。その上で、読み手にとってわかりやすい言葉で、読み手の知りたい情報を文章として伝えます。すると、頭の中にこれを伝えようあれも伝えないと、ということが、いくつか浮かんでくるはずです。それらを文章化するには経験や慣れも必要になってきますが、何を書いて良いのかわからない状況からは抜け出せるのではないでしょうか。

こうして読み手を設定することで、聞きたい、知りたい、読みたいに応えることが可能となり、効果的な文章が書けるわけです。上記はやや難しい話だったかもしれませんが、イメージはつかめたと思います。読み手を設定するのは、文章を書く上でのマインドセットという側面がありますが、これはノウハウであり実際に使える技術です。言葉尻を変えようとか、一文を身近くしようとか、そうした小手先の技術よりはるかに重要で、パワフルな技術です。ぜひ実際に文章を書く際にお役立てていただければと思います。

以下、後編に続きます。後編では、どのような文章を目指すべきか、設定した読み手にどのように思いを伝えていくか、さらに解説します。

まとめ

・文章は「読まれるため」に「書く」。
・何をどう読むかは読み手にゆだねられている。
・読んでもらうために「誰に」読んでほしいか、読み手を設定する。
・読み手の設定は、年齢や性別、職業、性格、志向性などを考慮して行う。
・読み手が設定されると何を書けば良いかが見えてくる。

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