【万年筆】パイロットコーポレーション カスタム74

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今回ご紹介したいのは、国内三大メーカーの一つ、パイロットコーポレーションのプラグシップモデル「カスタム」です。1918(大正7)に株式会社並木製作所としてスタートしたパイロットは2002年に東証一部への上場。資本金23億4072万8,000円、売上870億9600万円、従業員数約1000人と、文具業界では最大規模の会社の一つで、万年筆メーカーとしては最大と言っていいでしょう。そのパイロットの代表的モデルとなる製品がカスタムなのです。
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100年にわたる歴史の中で誕生

同社ホームページによれば、カスタムは「PILOTの約100年にわたる万年筆づくりの歴史の中」で生まれました。カスタム(CUSTOM)は「注文品」を意味し、つまり「使う人の注文に応える」との思いが込められています。カスタムはシリーズになっており、初代が世に送り出されたのは1971年でした。その後、1992年に今回ご紹介する74が登場。強い筆圧でも滑らかな書き味を実現していることが特徴で、万年筆を使い慣れていなくても、違和感なく字が書けます。74はペンの太さ(ペン種)がなんと11種類もあり、好みや目的に合わせて選ぶことができます。まさに「カスタム」と名に冠する通りです。なお、同じカスタム74でも、ペン軸の色などによって選べるペン種が若干、異なります。この点は注意が必要です。

さまざまな種類が出されているカスタムですが、74はスタンダードモデルの一つでです。他に742、743などがあります。742、743に着目すると、74との違いとして、ペン先を含めた全体の大きさが挙げられます。もっとも小さいのは74です。ただし、小さいといっても、74は同じく国産メーカーのフラグシップモデル、#3776センチュリー(プラチナ万年筆)、プロフィットスタンダード(セーラー万年筆)をやや上回ります。このことを考慮すると、カスタム742、743はゆったりと、落ち着いて書くことを志向していると言えるかもしれません。また、742、743は74よりさらにペン種が増えます。

価格も異なります。74が13,200円(税込み)、742が22,000円(同)、743が33,000円(同)となっています。いずれも吸引式とインクカートリッジに対応している両用式で、極端に高額ではないという観点から、初心者が扱うのに適しています。その中でも、74はもっとも求めやすく、スタンダード中のスタンダードと捉えることがきます。その意味で、カスタム74は初めの一本、普段使いの一本として持っておきたい万年筆です。
※価格は2021年のものです。現在は変わっています。

自社一貫体制で万年筆を生産

パイロットは万年筆を自社一貫体制で作り上げています。ペン先やペン軸などあらゆる部分の製造の全工程を自社で工程を行っているのです。これは世界の万年筆メーカーを見ても極めて稀で、多くの場合は製造工程のある部分やあるいは全部を、協力会社に発注するなどします。それを自社ですべて行うところに、パイロットのものづくりへの強い思いが見て取れるでしょう。製品の品質への信頼は高く、めったに故障もしません。高い技術力と実績に支えられた製品を手にできるのです。

また、パイロットは多彩なインクでも知られています。今でこそ、本当にさまざまな色が出されていますが、万年筆といえば黒かブルーブラックで、色を楽しむという概念はほとんどありませんでした。転換のきっかけとなったが、2007年にリリースされた、同社の「iroshizuku<色彩雫>」シリーズです。これまで万年筆のインクとして想定されていなかった色が、「朝顔」「紫式部」「孔雀」「夕焼け」など情緒深い名称と共に送り出されました。その名称は単に面白おかしくつけられたのではなく、微妙な濃淡、明度、色味の違いを表現するのに用いられたのでした。インクにはこちらにも詳しく書いております。ぜひご覧ください。

書く道具としては申し分ない

実際に書いてみてはどうでしょうか。やはり国産品だけあって日本語を書くことに最適化されており、トメ・ハネ・ハライや字の強弱が表現できます。字を書く楽しさが味わえるのは間違いありません。ただ、このことは、他の国産メーカーの万年筆にも概ね当てはまります。つまり、書きやすさという点では、セーラーもプラチナも大差ない。さらに、フラグシップモデルは価格がほぼ同じで、品質についても見劣りする、あるいは突出して良いということはありません。要するに、だいたい似たようなものなのです。では、仮に初めの一本に国産メーカーのフラグシップモデルにするとして、何を基準に選べば良いのでしょう。今回はいつもと趣向を変えて、初めの一本選びという観点を交えながら、カスタム74に触れていきたいと思います。

初めの一本を選ぶ基準はいくつかありますが、もっとも標準的なものとして挙げられるのが、自分に合うかどうかです。当たり前のことですが、これは実際に手に取って書いてみないことにはわかりません。また、相対的な比較がなければ、ベストな判断ができないことも忘れてはならないでしょう。つまり、カスタム74とセーラーのプロフィット、プラチナのセンチュリーを書き比べることで、どの万年筆がもっともしっくりくるか判断するのです。ペン先が硬いと言われても、万年筆になじみがないうちは、ピンとこないものです。実際に書いてみても、「こんなもんなんだ」という程度の判断しかくだせません。比べることで初めて、これはさっき書いたペンより柔らかいが自分に合うのはさっきのほうかな、などということがわかるようになるのです。

ただ、書き比べてみても、どれがベストなのか判断できないことは少なからずあります。普段それほど書くことを意識していないので、自分の筆圧や書き方の癖などを把握しておらず、どれが合っているなどということはなかなか言えないのです。さらに3大メーカーのフラグシップモデルはいずれも十分に書きやすいので、甲乙つけがたい。要するに、どれも選んでも間違いはないから、最終的には「えいやっ」と決めるくらいしかないのです。デザインの違いで選ぶという手もありますが、3大メーカーのデザインは似通っています。色に関してはセーラーのみ選択の幅が狭いですが、「初めの一本だし無難に黒にしよう」とした場合は、ほとんど差がなくなります。結局「えいやっ」と決めるしかないのですが、それでは適当に選べと言っているのに等しいと言えなくもありません。

万年筆づくりの「物語」に着目する

そこで一つの案として提示したいのは「背景にある物語で選ぶ」という手法です。どのメーカーにも、創業の物語や製品に対する思想、あるいは企業理念というべきものがあります。どのような思いで万年筆を作っているのか、万年筆を通じどんな生活や未来を創造したいのか。そうした「物語」に耳を傾け、その上で初めての一本を選んでみるのはいかがでしょうか。

日本の企業は、万年筆メーカーに限ったことではないですが、このへんの主張が弱いように感じます。やや話はそれますが、理念や思いは、今後の企業の成長、すなわち商品やサービスの売れ行きを左右する大きな一つの要因となると考えられます。環境にやさしい、フェアトレード、ゼロエミッションなどを主張する企業は前々からあり、近年はSDGsが注目されていますが、これからはもっと密接に商品・サービスに企業なりの「物語」が絡み付けられると思います。それは単に売れ行きを左右するにとどまらず、採用力やエンゲージメントを考える上でも重要なキーとなるでしょう。

ちなみに、パイロットの企業スローガンは「書くを、支える」です。また、2011年の企業広告は万年筆がテーマになっています。キャッチコピーは「万年筆は、時間がかかる。でも、その時間は、相手を思う時間になる。」でした。

参考にしていただければ幸いです。

【仕様(本文中のもの)】
ペン先/14金
字幅/M
方式/両用式
サイズ/全長 143mm
重さ/約17g

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