文章を読んでいると、流れるようにスラスラ読める時と、なんだかゴツゴツしているというか、内容がスッと頭に入ってこない時があると思います。自分の文章を読み直していても、流れが良くないと感じることがあるかもしれません。書いてあることは間違いないが、何度か読まないと意味が取りづらいし、どうもごちゃごちゃしている気がするが、どこをどう変えればいいのかわからないと、モヤモヤすることもあるでしょう。実は、流れの良くない文章はちょっとしたコツを知ることで、大きく改善することができます。そして、そのちょっとしたコツは、自分の文章を根本的に変えてしまうほどの可能性を秘めた、パワフルなテクニックなのです。ぜひこの機会に理解を深め、これからの文章執筆に活かしていただければと思います。
意味の塊を意識する。
流れの良くない文章は「行ったり来たりしている」と評されることがあります。「確かに、行ったり来たりしている」と感じたとしたら、それはとても重要な感覚です。なぜなら、そこに文章の流れを良くするコツが隠されているからでです。実は流れの良くない文章は実際に行ったり来たりしています。どういうことでしょうか。理解を深めるために、以下の文字列を眺めてください。
DCAAEDABDBCABDBCEDCECEAEB
どのアルファベットが何文字あるかわかるでしょうか。DCAなどが行ったり来たりしており、目がチラチラします。初見でわかる人はほとんどいないと思います。しかし、同じアルファベット同士で塊を作るとすっきりとわかりやすくなります。実際に並べ替えてみます。
AAAAABBBBBCCCCCDDDDDEEEEE
いかがでしょうか。これならABCDEがそれぞれ5文字ずつあることが、容易にわかったはずです。
流れの良くない文章は、上段のランダムに置かれたアルファベットのように、情報が入り混じっておりまさに行ったり来たりしています。これを意味の塊を意識して下段のように並び変えれば、文章か見違えるように良くなります。
次に、実際の文章でこの違いを確認してみましょう。
(改善前)
紹介する家は、木造で1階には和室が1部屋ありますが、2階はすべて洋室です。屋根裏部屋もあります。1階は3LDKで、庭がついています。ダイニングキッチンには最新式のIHが取り入れられています。2階はすべての部屋にクローゼットがついており、3部屋です。敷地面積は約155平米です。
(改善後)
紹介する家は、木造2階建て庭付きで敷地面積は約155平米です。1階の間取りは3DKで、和室1部屋と洋室2部屋、ダイニングキッチンがあります。ダイニングキッチンには最新式のIHが取り入れられています。2階は洋室が3部屋で、すべての部屋にクローゼットがついています。また、屋根裏部屋もあります。
改善前と改善後に、情報量の違いはありません。言っていることはまったく同じです。しかし、改善前はいかにも読みづらく流れが良くない。一読してどんな家か、なかなか想像できないでしょう。これを意味の塊を意識して書き換えたのが、下段の改善後です。意味の塊を意識するとは、つまり、要素の近い者同士をくっつける、内容や意味的に似ているものを近くに配置する、ということです。例文はもっと上手に書き換えることもできると思いますが、それでも読みやすくなったのがわかるはずです。
この例は極端な例ですが、こうした文章は時折、見かけます。思いつくままに文章を書いてしまうと、行ったり来たりしている文章になりがちです。ですので、書く前に書くことをメモやノートに整理すると、文章が行ったり来たりする事態は避けられます。書き終わった後に遂行するのも非常に有効です。意味の塊を意識すれば、書いている途中でも、文章の流れがおかしい、この要素とこの要素はくっつけたほうがいいだろうと発想できるようになります。万年筆ではなくパソコンなどで文章を書く場合は、編集作業が容易にできますので随時、書き換えるのもいいでしょう(ただ、文章には勢いも大事なので、一旦書き上げてから、編集するほうをおすすめします)。
自分はこういう変な文は書かないと思っていても、行ったり来たりはやってしまいがちです。自分の文章を読み返して、どこかおかしい、しっくりこないと感じたら、意味の塊を意識して推敲してみましょう(おかしいと感じなくも推敲は必要です。念のため)。
抽象⇔具体、大⇔小の流れを意識する。
塊を意識して同じ要素のもの同士をくっつけたけど、まだ文章の流れが良くない、しっくりこない、ということがあるかもしれません。その時は、抽象⇔具体、大⇔小の流れを意識してください。文章は抽象的な説明をしてから具体的な説明をする、あるいは、具体的な説明をしてから抽象的にまとめる、という一連の流れで書くと非常にすっきりと読みやすくなります。「抽象から具体」または「具体から抽象」は文章を書く場合の重要なキーワードです。抽象・具体がイメージしにくい場合は、全体的な説明をしてから細部の説明をする、あるいは細部の説明をしてから全体を語るという具合に、文章は大から小あるいは小から大へと流れると考えるとわかりやすいかもしれません。
先ほどの家の例を見てみましょう。改善後の文章は、家全体→1階→2階という流れになっているのに気づくと思います。さらに細かく見ると、家全体→1階全体→1階細部→2階全体→2階細部となっています。この流れが、1階全体→1階細部→2階全体→2階細部→家全体となっていても、十分に流れはスムーズです。大(全体)から小(細部)という流れを小(細部)から大(全体)に変えただけだからです。実際に例文で確認してみましょう。
ところが、1階全体→1階細部→家全体→2階全体→2階細部となると、とたんに読みにくくなります。これは本来、小の要素としてまとめられる1階と2階の説明の間に大の要素である家全体の説明が、入り込んでしまったからです。これも例文を見てみましょう。
ほんの一文差し替えただけですが、かなり読みにくくなりました。抽象⇔具体、大⇔小の流れを意識する大切さが伝わったのではないでしょうか。
今回は文章の流れについて、「意味の塊」と「抽象⇔具体、大⇔小」という、意識すべき重要な2つの事項について解説しました。この2つを意識するだけで、文章は劇的に変わります。読みやすくまとまりのある文章が書けるようになります。推敲の際には、文章の全体を見ながら「この要素とこの要素は近い関係にあるからくっつけたほうがいい」「抽象から具体の流れが途切れてしまうから一部書き換えよう」また、文章の構成を考える際にも、この2事項は非常に役立ちます。文章のもととなる素材(取材で得た情報など)を「意味の塊」と「抽象⇔具体、大⇔小」を意識して並べていくだけでも、文章として成り立ちます。非常に有用性の高いテクニックですので、ぜひ活用いただければと思います。
まとめ
文章の「塊」と「大→小(抽象→具体)」の流れは、イメージできたでしょうか。大切なのは文章をあちこちに行かせない、伝える順番を整理するということです。そのために、下書きで大まかな流れを作ることがとても有効です。万年筆で書く場合は特に下書きは欠かせません。パソコンを用いる場合は書いた後からでも編集作業ができるので、あまり細かなことを気にせず書き出すことも可能です。とはいえ、下書きなしで書き出すのは、書くことを仕事にしているライターでも一定の難易度を感じます。下書きは万年筆でノートにして、そのノートを見ながらパソコンに打ち込めば、万年筆を使いながら読みやすい文章を書け、一石二鳥です。ぜひ「万年筆で書くこと」を楽しみながら、文章の作成に臨んでみてください。