「万年筆」という言葉の由来。いつから使われ、定着したのか。

万年筆(まんねんひつ)はとても味わい深い言葉です。長い年月使える「万年」の「筆」。万年筆を表すのにこれ以上の言葉は考えられないと言いますか、卓越したネーミングセンスを感じます。「万年筆」の由来とは何でしょうか。万年筆はどのような経緯で名付けられ、いつごろから定着したのか。少し探ってみたいと思います。

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1885年に萬年筆(まんねんふで)の記述が見られる。

万年筆は舶来品ですので、当然のことながら、元々の名称がありました。それは、ご存氏の通りfountain penです。fountainは噴水、水源、泉などの意味があり、直訳すれば噴水ペンまたは噴水筆というところでしょう。インクが噴水のように沸いてくるという機能的なところに着目して名付けられたと考えられます。日本でも1888(明治21)年に「泉筆」という名称が使われていたようです。その後、1905(明治38)年に「高木式萬年筆」という記述の特許書類がありました。ただ、そのころはまだ「万年筆」の定着にはいたらず、「軽便含墨筆」「吐墨筆」「貯汁筆」「自在泉筆」「竹穂泉筆」「便利ペン軸」「萬徳筆」「如意軸」などで特許が取られました。また、時代がさかのぼって恐縮ですが、萬年筆(まんねんふで)の名称は1885年10月23日版の「東京横濱毎日新聞」にも見られます。ただ、どうもこの「萬年筆」は「fountain pen」につけられた名称というよりは、日本で発明した筆(ペン)に対して名付けられたと考えられます。そう考える根拠となるのが「東京横濱毎日新聞」この記述です。

「ここに日本橋區本石町統計商大野徳三郎なる者あり。一種の筆を発明し名づけて萬年筆(まんねんふで)という」

この記述を素直に受け取るなら、この大野徳三郎氏が「萬年筆」を発明したことになります。ということは、その時点は萬年筆(万年筆)とfountain penは別物でした。その後、紆余曲折を経てfountain penが万年筆と呼ばれるようになった、のでしょうか。諸説あるようなので断ずることはできませんが。なお、本家のfountain penという言葉 は1809年にイギリスで用いられたとのことです。
※参考 えい出版社 万年筆クロニクル(すなみまさみち、古山浩一)

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万年筆はfountain penの訳語ではない?

ここまでの情報を総合すると、あくまで推定ですが、万年筆はfountain penの訳語ではないということになります。ただ、fountain penを日本で万年筆と名付けたという説もあり、現状では資料が乏しいので、なんとも言えないところです。もし仮に訳語でなかったとしたら、fountain penを類まれな言葉のセンスの持ち主が「万年筆」と訳したのだと考えていたので、とても驚きです。fountainに万年という言葉はなかなか当てられないでしょう。インクが湧き出るという機能をうたっているのに、なぜ万年に転換したのか。疑問でしたが、「萬年筆」という言葉がもともとあったかもしれないのですね。ただ、万年筆という言葉は言い得て妙で、「万年筆」を表すのにまさに最適です。だからこそ、後々までも使われるようになったのでした。

それにしても、特許の申請は出されたようですが、商標についてはあまり気にしなかったのでしょうか。仮に推測通り「万年筆」が元は別の商品を指しているのだとしたら、その商品名を別の物に使用したことになります。現在ではちょっと考えられないことです。あるいは、万年筆という言葉そのものは既に一般化していたのかもしれません。インクの出るペンのことを広く万年筆と言い、それが後に特定の機能や性質を持つ物にだけ用いられていったいうことです。こう考えたほうがしっくりくるような気もしてきます。

現代ならfountain penは何と名付けられるか。

ところで、今、fountain penが輸入されたとしたら、何と名付けられたでしょうか。penを筆とはまずしないでしょうから、penはきっとペンです。問題はfountainで、言葉のセンスが問われるところです。例えば、単純に「泉ペン」だったとしたら、「泉ペンは泉さんの発明ではない。fountainの直訳だった」などとテレビで取り上げられるかもしれませんね。ただ、私はファウンテンペンとそのままの名称だと予想します。近年は英語に対しての知識が深まったこともあってか、元の名称をそのまま使うことが増えています。これには、元来の意味を損なわれないためや、あるいは商標の問題があるのかもしれません。

加えて、英語の発音への抵抗もかなり薄くなり、音に忠実にカタカナにします。かつては言いやすいように、radioをラジオ、cameraをカメラなどとしましたが、今なら、レイディオ、キャメラと聞いた通りの言葉が当てられると見ています。もはやそのほうが自然なように感じられるでしょう(バイシクルやペンシルなどは日本語として定着していますが、英語の発音を聞くと違和感を覚えます。バイセコーとペンソーとしてほしいと思います笑)。従って、fountain penも変にファンテンペンなどとせず、ファウンテンペンとなると考えます(fountainはファウントゥンと言っているように聞こえますが、さすがにそれはちょっと変かなと思いますので、ファウンテンとします)。

ただし、省略は日本語の宿命というか、長い言葉には必ず起こることなので、ファウンテンペンは例えば「ファンペン」などと呼ばれるかもしれません。ファンペンなら中高生でも使うイメージが持てるので、これはこれでいい名称のような気がします(笑)ただ、万年筆の重厚感と高級感がなくなるので、いかんともしがたいところです。

以上、「万年筆」という名称について、調べを進めてみました。万年筆という言葉そのものは明治から存在しましたが、fountain penが輸入されてすぐに万年筆と呼ばれたわけではなさそうです。現状では、文献の調査や取材は十分とは言えないので、万年筆という言葉についてはもっと探ってみる余地があるのは間違いありません。参考までに。

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