前回、東京・蔵前の文具店「カキモリ」に足を運んだ時のことを書きました。その際、カキモリオリジナルのガラスペンを購入しました(カキモリに関する詳しい記述はこちら)。このコーナーではいつもは万年筆を紹介していますが、今回は番外編ということで、「ガラスペン」を取り上げます。
ガラスペンは日本発
実のところ、カキモリにはガラスペンを買いにいったのではありません。評判になっているカキモリがどんな場所か見てみたかったのと、オリジナルの万年筆を購入するつもりでした。それがガラスペンに変わったのは、カキモリオリジナルのガラスペンがあると店員さんから聞き、試し書きをさせてもらったところ、とても楽しく心地よく筆記することができたからです。
ガラスペンはペン先にインクを浸して書く、いわゆる「つけペン」です。万年筆とは異なり、インクを吸入して書く筆記具ではないため、当然のことながらインク補充が不要で、その都度ペン先にインクをつけながら筆記します。その点は面倒くさいところでもあり、楽しいところとも言えるでしょう。もっとも大きな利点は、いろいろなインクをスピード感を持って試せることです。万年筆のように、一度吸入したインクやインクカートリッジを使いきる必要はありません。ペン先の汚れを取れば、別の色が使えます。1行書くごとに、インクをふき取って別の色を使ってもいいわけです。多様なインクを楽しみたい身としては、前々から欲しいと思ってはいました。
ガラスペンについて少し調べてみると、なんでも1902(明治35)年に日本の風鈴職人!?が作ったのだそうです。ということは、ガラスペンは日本発!いかにも舶来品という感じなのですが、なんと日本が発祥だったのです。それも、風鈴職人が作ったというのだから驚きです。風鈴とペンを融合させようとは、非常に突拍子もないと言いますか、柔軟な発想です。今風の言葉で言えば、イノベーションですね。ウォーターマンが毛細管現象を取り入れたのと同じくらい画期的なことだと思います。どういうきっかけで、風鈴からガラスペンが思い至ったのでしょうか。とても興味深く、いずれしっかりと調べてみようと思います。それにしても、不思議なもので日本のものと言われると、それだけで非常に愛着がわきますね。
ガラスペンは、カキモリの店員さんによれば、基本的には一本一本が職人さんの手で作られます。このため、同じ種類のガラスペンでも一本ごとに微妙に書き味が異なります。購入の際に同じ種類のペンを数本試しましたが、確かに違います。大差はないのですが、違うのはわかります。自分に合う一本を探したいという場合は、店舗に足を運び、試し書きをするのが良いのではないでしょうか。
書きやすさに違いを感じる
カキモリにはオリジナル以外のガラスペンも置いてありました。見た目にはどれも美しく、その意味ではどれを選んでもいいと思えました。ただ、店員さんによれば、書き味が大きく異なるとのこと。試してみますかということなので試してみると、はっきりと違いが感じられました。微差の範囲どころではありません。ペン先の紙の引っ掛かり方がはっきりと違います。
好みもあるかもしれませんが、私にはオリジナルのもののほうが、随分と書きやすいように思えました。聞けば、オリジナルでないほうのガラスペンの書き味のほうが「一般的」で、オリジナルのほうは書きやすさに重点を置いて作ったとのこと。これはもうオリジナル以外の選択肢はないと思ったのは言うまでもありません。なお、ガラスペンは頻繁にペン先をインクにつける必要があるように感じるかもしれませんが、「1回つければ原稿用紙一枚分くらいは書ける」そうです。実際にノートにいろいろと文字を書いてみましたが、確かにインクは切れません。想像以上に長持ちします。
ガラスペンの使用上の注意点
ガラスペンは思っているよりは丈夫な作りをしています。ペン先は細くてちょっと力を入れれば壊われそうですが、それほどもろくはありません。通常の使い方をしている限りは、破損の心配はないと思います。ただ、やはりガラスなので、衝撃に弱い点は否めません。落としたりぶつけたりしないよう使うなどの注意は必要になるでしょう。
従って、持ち運びにはあまり向かいないと考えられます。ペンケースなどに収納しておくと、誤って衝撃を与えてしまうことがないとも限らないからです。また、ボトルインクを持ち運ばなければならず、仕事用のカバンにインクを入れるのは、万が一のことを考えて少し抵抗があります。使用後には洗浄の必要も生じるため、さっと書いてさっとしまうという使い方はできません。これらのことを考慮すると、ガラスペンは家で腰を落ち着けてゆったり書くのに最適な道具と捉えられます。
今回、初めてガラスペンを手にしましたが、使ってみるとなかなかに良いものです。水洗いの必要はありますが、手入れそのものは簡単です。何より一度にいろいろなインクを試せます。今、ガラスペンは静かなブームになっており、デザインもさまざまに出ているようです。何本か持ってみようかという気にもなっています。