せっかく万年筆を持ったのだから、文章を書いてみたい、むしろ、書くために万年筆を手にしたのだ、という方も多くいると思います。そこで今回、文章の書き方について、少し解説いたします。これからご紹介するのは、「書けない」という悩みを即自的に解決する、パワフルな作文の技法です。ぜひご活用いただければと思います。
文章は読まれるために書く。
大前提として、ぜひ知っていてほしいことがあります。それは、文章は「読まれる」ものということです。書くものではありません。書くものから読まれるものと意識を切り替えるだけで、文章は必ず変わってきます。特に読んでもらう人もいないのだけど、という場合でも読まれることを想定しましょう。そのほうが文章の質が向上します。
同時に意識しなければならないのが「何を伝えるのか」ということです。伝えたいこと、あるいは、表現したいことがあるから、文章と向かい合います。特段の意識もなく机に座っていたらいつの間にか文章が出来上がっていた、ということは基本的にはないわけです(一部の天才は別にして)。何を伝えたいのか、書く前にこれをはっきりさせるだけで、書けないという悩みの大半は解決されます。
伝えたいこととは、「聞いてほしいこと」「知ってほしいこと」と言い換えてもかまいません。「ちょっと聞いてくださいよ~」と言って話し出した経験が、一度や二度はあると思います。まさにあの感覚で、今度は言うのではなく書くのだ、と考えればいいのです。
実は文章が書けないという場合、そのほとんどの理由は書きたいことがないからです。逆に言えば、何を伝えたいのかはっきりとさせてしまえば、書けたも同然。少し硬い言い方をするのなら、自分なりのテーマや主張を見つけるのが、文章を書く上で非常に重要なのです。
もっとも簡単な作文法。
書きたいことが見つかった、さて、次はどうするか。早速、その書きたいことを書いてみましょう。つまり、自分の主張を一文目にします。例えば、「万年筆が好きである」と伝えたいなら、それを冒頭に書きます。これで、もっとも書くのが難しいと言われる、文章の第一文ができてしまいました! 書き出しは凝ったほうがいいというのはもっともなアドバイスですが、考え込んで書けなくなってしまっては元も子もありません。まずは書いてみることを大切にましょう。
続けて、「なぜなら、~だからだ」と書きましょう。主張するには理由があるのですから、それを書きます。「とても一言では言い切れない」というのであれば、その理由をすべて書き記してもOKです。その際、例えば、理由が三つあるなら、「理由は三つある。一つ目は~。二つ目は~。三つめは~だ」とすれば、非常に論理的で引き締まった印象を与えられるでしょう。
何より、書けないと思っていた文章が、主張と理由を書くだけで十分な量を持った文章になったのに気づくと思います。さらにボリューム(長さ)のある文章に仕上げたいのなら、理由に続けて、具体例を書いてみましょう。文章のボリュームは具体的な話をどれだけ書き込むかで決まります。作文・エッセイ調に仕上げる場合は、具体例は「具体的な場面」、「筆者の体験・経験」を書くのだと捉えてください。
また、文章の個性は具体例に表れやすいものです。主張で個性を出すのはなかなか簡単でありませんし、仮に突拍子もなく他の誰も真似できないような主張があったとしても、その主張を支える根拠、すなわち、具体的な体験がなければ、ただ言っているだけに終わるでしょう。反対に、主張そのものは至って普通で代わり映えのしないものでも、具体的が面白ければ、面白い文章になります。
例えば、上記の「万年筆が好きである」という主張は平々凡々ですが、具体例(体験)の書き込みによって、面白くなるはずです。「私は万年筆が好きである。なぜなら、~だからだ。もう10年も前のことになるが~」みたいな感じでつづっていき、「なるほど、そういうことがあったからか、それなら納得だ」などと読み手に思ってもらえれば、かなり質の高い文章が書けたと言えます。
文章の仕上げとして、最後に「最初の主張+未来の決意」で閉めます。例えば、「私は万年筆が好きである。なぜなら、~だからだ。もう10年も前のことになるが~。だから、私は万年筆が好きなのだ。これから~したい」という感じになります。最後の一文は最初の一文と同じくらい難しいものです。何をどう書けばいいか迷うことも多いですが、「最初の主張+未来の決意」で文章を終えると決めておけば、非常に楽になります。それでいて、十分に余韻が残せ、味わいのある終わり方ができるのです。
原稿用紙は使わない。
万年筆で文章を書くとなると、紙が必要になります。この紙ですが、原稿用紙はあまりおすすめできません。整然としたマス目のある原稿用紙を前にすると、どうしても硬くなってしまうからです。変に緊張感が高まり、なかなか最初の一文字が書き出せません。万年筆を使う場合に限ったことではないのですが、文章を書く時は書きなぐるくらいの気楽な気持ちのほうがいいのです。
このため、おすすめしたいのが、一般的な大学ノートです。あくまでノートなので、気楽に何でも書いていけますし、どこででも手に入ります。罫線はなるべく大きいほうがいいでしょう。と言いますか、罫線を無視するほどの勢いで、まさに書きなぐったほうが万年筆で書いている感覚を味わえるはずです。
また、文章は通常、原稿用紙に書くなど清書する前に、下準備の段階があります。下準備では、書く材料を集め、文章の構成を思案するなどします。いきなり清書しようとしてもまずできません(下準備の話はとても重要なので別途、解説いたします。下準備をしないことが、文章を書けない理由の一つでもあります)。少なくとも、どんなことを書くか、考えるはずです。その考えたことをノートにメモ書きしてください。
メモを取っていくうちに、考えがまとまることは多々あります。考えがまとまったら、そこで一気に書いてしまいます。手が止まったら、そこでまた改めて考え出して、メモを取り出してもかまいません。そして、考えがまとまった時点であまた書いていきます。前に書いた文章が気に入らなくなったら、大きなバツでもつけて、書き直せばいいでしょう。メモと清書のスペースを分ける必要はありません。ごちゃごちゃと書いていけるのがノートの良さです。
一通り書き終えて、せっかくだからきちんと書き直そうとなった時は、原稿用紙を使うのもいいと思います。原稿用紙以外でも、万年筆で書くための便せんなどがあります。下書きはできているので、ゆったりとした気持ちで文章を書いていけるでしょう。
なお、文章や作文というと、「起承転結」を思い浮かべることが多いと思います。しかし、実は「起承転結」はあまり実用的ではなく、また、使いこなすのには慣れが必要になります。一方、今回ご紹介した手法は、使いやすい上に応用の幅も広く、主張(結論)から書き出す文章の流れ(型)はビジネス文書でも活用できます。ぜひ使ってみてください。起承転結に則った作文方法についても別途、説明する予定です。