
【前編】では、万年筆選びの基本と、技術力に定評のある日本・ドイツの王道ブランドをご紹介しました。今回は、優雅なフランス、実用的なアメリカ、芸術的なイタリア・スイスのブランドを巡ります。さらに万年筆の世界を深く探求していきましょう。
※本記事はプロモーションを含みます。
【国別】主要万年筆メーカーの特徴と代表モデル
【フランス】優雅さとステータス
ファッションのように、持つ人の個性を表現します。貴金属やラッカーを使った華やかな装飾や、流れるようなフォルムには、芸術の都パリの洗練された美意識が息づいています。
【ウォーターマン (Waterman)】
手元を華やかに彩る優雅なデザインが魅力です。流れるような美しいフォルム、貴金属やフレンチラッカーを用いた繊細な装飾には、パリの洗練されたエスプリが宿ります。持つ人の個性を表現するファッションアイテムとして、特別な存在感を放ちます。
◆ブランドを一言で表すと?:世界で初めて商業的に成功した、実用的な万年筆ブランド。
◆特徴と歴史: 1883年に世界で初めて毛細管現象を応用して万年筆を製品化。毛細管現象でインクフローを安定させた「万年筆の祖」と言える存在です。「ライティング・ジュエリー(書く宝石)」と称される、優雅で洗練されたフレンチデザインも魅力。
◆ペン先と書き味: 滑らかで安定したインクフローによる、スムーズな書き心地に定評があります。ペン先は硬すぎず柔らかすぎず、バランスの取れた書き味のモデルが多いです。
◆代表的なモデル:
・カレン: 流線形の美しいフォルムが特徴のフラッグシップモデル。
・エキスパート: ビジネスシーンに映える、太軸で実用的な人気モデル。
・メトロポリタン: 細身でスタイリッシュなデザイン。手帳にも合わせやすく、女性にも人気です。
◆こんな人におすすめ:
・エレガントで洗練されたデザインの万年筆が好きな方
・安定した滑らかな書き心地を求める方
・万年筆の歴史や物語性を大切にしたい方
【エス・テー・デュポン (S.T. Dupont)】
◆ブランドを一言で表すと?:王侯貴族に愛された職人技が息づく、生涯のパートナー。
◆特徴と歴史: もともとはフランスの王侯貴族に愛された高級ライターなどのメーカー。培った精密加工技術を活かして作られる万年筆は、工芸品と言えるでしょう。キャップを閉める時の「キンッ」という独特の反響音は、デュポンの象徴でありステータスです。
◆ペン先と書き味: ずっしりとした金属製のボディがもたらす重厚な書き味。滑らかでありながら、しっかりとした書きごたえがあります。
◆代表的なモデル:
・ラインD / オランピオ:デュポンを代表するクラシックなコレクション。
・デフィ: 戦闘機を思わせるシャープで現代的なデザイン。
◆こんな人におすすめ:
・ライターや時計など、男のこだわるアイテムが好きな方
・ずっしりとした金属の重みを感じながら書きたい方
・他の人とは違う、圧倒的な高級感とステータスを求める方
【アメリカ】歴史と実用性のパイオニア
常に時代のニーズを捉え、革新的な機構で万年筆の歴史をリードしてきました。無駄を削ぎ落とした合理性とタフなビジネスシーンで培われた信頼性があります。実用性を第一に考えた、頼れる筆記具が揃います。
【クロス (Cross)】
◆ブランドを一言で表すと?: 筆記具の老舗が手がける、スリムでモダンな万年筆。
◆特徴と歴史:ボールペンで世界的に有名なクロスですが、1846年に創業した老舗の筆記具メーカーです。万年筆についても、1879年に最初の万年筆を製造して特許を取得するなど、重要な役割を果たしてきました。ボールペンのデザインテイストを受け継いだ細身でスタイリッシュなモデルが多いのが特徴です。モダンで洗練されたデザインは、ビジネスシーンやカジュアルな場にも馴染み、手帳やノートにすっきりと収まります。
◆ペン先と書き味:硬くしっかりした書き味で、筆記時の安定感があります。日本のメーカーに比べてやや太めの字幅が多い傾向にあります。
◆代表的なモデル:
・センチュリーII:クロスを代表するボールペン「クラシックセンチュリー」のデザインを継承。細身のシルエットが美しいシリーズです。
・タウンゼント:最高級ライン。太軸で重厚感があり、安定した書き味を楽しむことができます。
・ベイリー:滑らかな流線形のボディが特徴。クロスの万年筆を気軽に試せるエントリーモデルです。
◆こんな人におすすめ:
・スマートでスタイリッシュなデザインを好む方
・ビジネスシーンで使える、洗練された万年筆を探している方
【シェーファー (Sheaffer)】
◆ブランドを一言で表すと?: ホワイトドットの信頼。実用的な吸入機構の先駆者。
◆特徴と歴史: クリップについた「ホワイトドット」マークは、生涯保証を約束した品質と信頼の証です。てこの原理でインクを吸入する「テコインレット式」や、ペン先と首軸が一体となった美しい「インレイニブ」など、数々の画期的な機構を開発して、万年筆の歴史をリードしてきました。
◆ペン先と書き味: やや硬めでがっしりとした作りのペン先が多く、筆圧が高くても安心して書くことができます。
◆代表的なモデル:
・レガシーヘリテージ: シェーファーの象徴「インレイニブ」を受け継ぐモデル。
・シェーファー300/100: 比較的リーズナブルな価格帯で、シェーファーの信頼性を体験できるシリーズ。
◆こんな人におすすめ:
・アメリカの古き良き時代の雰囲気が好きな方
・少し変わった機構の万年筆に興味がある方
・丈夫で実用的な、信頼のおける一本を探している方
【イギリス】伝統と格式の英国紳士
伝統と格式を重んじるクラシックなたたずまい。流行に左右されない普遍的なデザインと、深みのある美しい樹脂素材は、持つ人に落ち着きと品格を与えます。長く使い込むほどに愛着が湧く、信頼の逸品です。
【パーカー (PARKER)】
◆ブランドを一言で表すと?:信頼の証「矢羽クリップ」。歴史を彩ったスタンダード。
◆特徴と歴史:品質の高さが英国王室に認められ、「英国王室御用達(ロイヤルワラント)」の栄誉を授かっています。丈夫で扱いやすく、どんなシーンでも安心して使える万年筆を数多く生み出しています。かつては多くの重要文書の調印式で使われるなど、信頼性の高さで歴史に名を刻んできました。
※アメリカで創業し、イギリスで発展、現在はフランスで製造される歴史あるブランドです。現在は拠点をフランスに移していますが、アメリカ発祥のブランドとして紹介します)。
◆ペン先と書き味:硬めで安定した書き味のモデルが多く、初めて万年筆を使う人でも扱いやすいのが特徴です。
◆代表的なモデル:
・デュオフォールド: パーカーの威信をかけて作られたフラッグシップモデル。威厳のあるデザインと書き味。
・ソネット: パーカーで最も人気のあるシリーズです。「重量」「デザイン」「実用性」の3つのバランスが絶妙に計算された設計は、時代や性別、シーンを選ばず、多くの人々に愛されています。
・IM / ジョッター:手頃な価格帯が魅力。気軽に「パーカー」を体験できるエントリーモデルです。
◆こんな人におすすめ:
・ビジネスシーンでキラリと人目を引く、一本が欲しい方
・歴史と伝統のある、王道ブランドを選びたい方
・ギフトとして万年筆を贈りたい方(知名度が高く、誰にでも喜ばれやすい)
【イタリア】心躍るデザインと色彩
人生を謳歌するイタリアの文化を映し出すかのように、鮮やかな色彩と遊び心にあふれたデザインが魅力。美しいマーブル模様のレジンや独創的なフォルムが特徴的です。書くことを楽しむための情熱的な一本が見つかります。
【アウロラ (AURORA) 】
◆ブランドを一言で表すと?: イタリアン・エレガンス。宝飾品のような美しさと独特の書き味。
◆特徴と歴史:イタリアで最初の万年筆メーカー。美しいマーブル模様の「アウロロイド樹脂」を使った軸は、まるで芸術品のよう。インクが少なくなっても予備のインクで書き続けられる「リザーブタンク」機構など、独自の機能も備えています。
◆ペン先と書き味:「サリサリ」と表現される、独特のフィードバックがある硬めの書き味が特徴。紙との対話を楽しむような感覚で、文字を書くことに集中できます。
◆代表的なモデル:
・オプティマ (Optima): 1930年代のベストセラーを復刻したモデル。アウロラの魅力を凝縮した一本です。
・88 (オタントット): 丸みを帯びたクラシックなデザインが美しい、もう一つのフラッグシップ。
◆こんな人におすすめ:
・万年筆をファッションの一部として、デザイン性の高いものを求めている方
・個性的で、独特の書き味を求めている方
・所有する喜びを感じられる一本が欲しい方
【スイス】精密機械の魂
スイスは高級腕時計の聖地として知られます。その時計作りのDNAは万年筆にも受け継がれ、精巧な作りが特徴的。精緻な彫刻や滑らかな機構からは、熟練のクラフトマンシップが伝わってきます。
【カランダッシュ (Caran d'Ache) 】
◆ブランドを一言で表すと?:スイスメイドの精密機械。画材作りで培われた色彩感覚。
◆特徴と歴史:色鉛筆やボールペンで有名なスイスの総合筆記具・画材メーカー。時計製造で培われた精密加工技術を万年筆に応用しました。精巧な作りが魅力です。六角形のボディを持つ「エクリドール」や、ノック式の「849」など、ボールペンと共通のデザインを持つモデルが人気。
◆ペン先と書き味: 非常にスムーズで滑らかな書き味です。まるでペン先が紙の上を滑るような感覚で、インクフローも豊か。ペン先が紙に当たる抵抗が少なく、軽い筆圧でも楽に書くことができます。
◆代表的なモデル:
・エクリドール: ブランドを象徴する、六角形のボディが特徴。さまざまな彫刻パターンがあり、使う人の個性を引き立てます。
・レマン:レマン湖をイメージした、ふっくらとした美しいボディ。豊富なカラーバリエーションと、手に馴染む形状が魅力です。
・849: ボールペンで人気のモデルの万年筆版。カジュアルな雰囲気と、ポップなカラーが楽しめます。
◆こんな人におすすめ:
・美しいデザインやカラーの万年筆を探している方
・なめらかな書き味を好む方
・スイスメイドの確かな品質を手にしたい方
あなただけの最高の一本を
前編・後編に分け世界の万年筆ブランドを紹介してきました。いかがでしょうか。気になるブランドは見つかりましたか。あくまで個人的ですが、各国のブランドの以下のように分類してみました。
日本語を書く道具として→ パイロット、セーラー、プラチナ
一生ものを手にするなら→ モンブラン
ステータスシンボルとして → ペリカン、パーカー
毎日気兼ねなく使える相棒として → ラミー
心躍るデザインを求めるなら → アウロラ、エス・テー・デュポン
独自性を重視するなら→カランダッシュ
万年筆の歴史や機構に浸りたいなら → ウォーターマン、シェーファー
繰り返しますが、上記はあくまで個人的な見解です。さらに、上記はほんの一部で、世界にはまだ多くのブランドがあることも覚えておいてください。
ぜひ一度、文房具店に足を運んで、実際に手に取ってみてほしいと思います。軸の重み、キャップを開けた時の感触、紙の上をペン先が走る音と振動。それらを自ら体感し、万年筆との「出会い」を果たしてみてはいかがでしょうか。
ここで「では、あなたは何を選ぶのか」と典型的な質問が出るのは当然のことでしょう。それに対し「全部に個性があって、どれも素晴らしい」――などと炭酸の抜けたサイダーのような答えをするつもりはありません。私はメーカーの人間でなければ、販売店のスタッフでもありません。何を答えようが良いわけです。
とはいえ、数ある中から1本選ぶのは困難です。それでも、さまざまに思考を巡らせて、2本に絞りこめました。が、そこから先が本当に難しかったです。「全部に個性があって、どれも素晴らしい」はいかにも逃げの回答ですが、真実ではあって、1本に決めるのは困難なのです。絞り込んだ2本は、プロフィット21とスーベレーンM600です。プロフィット21は何と言っても、日本語を書くのに最適。書き心地もとても良い。スーベレーンM600は縦縞のアイコンが素晴らしく、手に持つだけで誇らしい気分にすらなる。本当に甲乙つけがたいですが、最終的にはプロフィット21に決めました。
理由は既に明記してある通り、日本語を書くのに最適だからです。プロフィット21かな思った時、私自身は万年筆を書く道具として見ている、デザインより書き味を重視している、ということに気づきました。もちろん、スーベレーンM600も十分に書きやすいのです。共に書きやすいのならデザイン重視でスーベレーンM600を選んでも良いところを、ほんの少しの書きやすさの違い、意識しなければほとんど気づかいないくらいの書きやすさかもしれない、でプロフィット21を選んだことが、私の自分自身に対する発見、自分自身の好みや志向性の再発見につながりました。
さて、あなたは何を選ぶでしょうか。選ぶのは大変ですが、選んでいる時間も楽しいものです。自分にとって至高の万年筆を探してみませんか。そんな楽しい旅に出かけましょう!