ペリカンのスーベレーンをM600と800で二度も取り上げたにもかかわらず、キャップのことにほとんど触れていなかったことに気付きました。キャップは万年筆の個性を表すのに非常に重要な部分。中でも、スーベレーンは大きな特徴があります。これを話題として取り上げなかったのは、うーん、なんということでしょう。。。今回は改めてスーベレーンのキャップについて触れると共に、国内・海外ブランドを比較しながらキャップについて取り上げたいと思います。
ペリカンにはペリカンがついている。
スーベレーンのキャップは非常に特徴的です。一見すると普通のキャップに何となく平べったいクリップが付いているだけのようですが、よくよく見てみると、ペリカンの形をしています。ペリカンだからキャップにペリカンが付いているわけで、なんとも遊び心があってとてもおしゃれです。ただ、実際のところ、ペリカンだとわかった上で見なければ、とてもペリカンには見えません。私は何となくくちばしマスクや、漫画『からくりサーカス』(藤田和日郎)のパンタローネ(知らない人はすみません)を連想してしまいました。
もしかしたら、形状そのものはそれほど洗練されていないのかもしれません。遊び心はありますが、カッコいいかと言われれば微妙、少なくとも好みの分かれるところでしょう。しかし、ペリカンだからペリカンというわかりやすいアイコンを持たせ、「スーベレーンにはペリカンをかたどったキャップがついている」と認識させることが非常に重要で意味のあることだと私は捉えています。
海外メーカーは自社商品のアイコンを創り出すのがうまい。
同じように、わかりやすい例として、パーカーのキャップがあります。パーカーと言えば、矢羽根のクリップです。矢羽根が印象的なアイコンになっていることは誰もが認めるところでしょう。また、モンブランはクリップこそ無個性ですが、天冠のホワイトスターが広く知られたアイコンになっています。ほかにも、海外メーカーの万年筆は独自のデザインや形状を持つものが多く、一べつしただけでブランドがわかることが少なくありません。海外メーカーはデザインの面からわかりやすく「自社らしさ」すなわち「ブランド」を作り上げていると言えます。
対して、日本のメーカーはどうでしょうか。3大メーカーで言えば、プラチナとセーラーはキャップだけではほとんど区別がつきません。パイロットのキャップは2社とは異なり、フラグシップモデルの「カスタム」では先端が球になっています。パイロットのアイコンと言えなくもありませんが、ペリカンやパーカーと比べるとインパクトというかデザインの面では少し見劣りする印象を受けます(カスタム以外では球になっていないので、クリップの先端が球=パイロットとする意図はないように思えます)。海外メーカーが自社らしさをデザインで持たせようとしたのに対し、日本のメーカーはデザインでないところを追求した、と受け止められるかもしれません。デザインでないところはどこかというと、機能性あるいは機能美なのではないかと個人的には思っています。
国産メーカーに足りないもの(個人的な意見です)。
自社ブランドをデザイン性の高いアイコンで表現するということは、万年筆に限らず、海外メーカー(厳密にはヨーロッパのメーカー)の特徴の一つです。自動車を例に挙げると、フェラーリ(伊)、ランボルギーニ(同)、ジャガー(英)、プジョー(仏)などはかなり凝ったデザインのエンブレムを持ちます。車自体もデザイン性が高く特徴的で、一見してすぐにメーカーがわかります。対して、日本のトヨタ、日産、ホンダなどはシンプルさが目立ちます。外見的な特徴はそれほど強烈ではなく、あくまで見た目に限定して言えば、デザイン性に富んでいるとは言い難いのが実情でしょう(好き嫌いは別にして)。
ここにヨーロッパと日本のものづくりに対する姿勢や、道具に対する考え方の違いを見ることができます。ヨーロッパが時に機能を度外視するほどにデザインを重視し、日本はものそのものの価値、すなわち使いやすさや機能を追求します。表面をきらびやかに飾ることはあっても、機能を妨げません。そうしたところに、日本らしさや日本の美が見て取れるのではないでしょうか。
万年筆にも、この日本の美が反映されています。海外メーカーが万年筆を装飾品と捉え多様なデザインを世に送り出したのに対し、日本のメーカーがキャップレスなどの新機能を生み出したのは、象徴的な出来事のように思えます。デザインについては好みもあり、日本的なシンプルさと使いやすさを重視したものがいいという人は多くいるでしょう。私も使いやすくシンプルなデザインを好みます。ただ、日本の万年筆メーカーも、これこそが我がブランドのアイコン、というものを作ってほしいと思わなくもありません。そうすれば国産メーカーのプレゼンスが国内外でもっと高まるように考えるからです。